第33章 心
「不思議な気分でした。景色は見慣れたもののはずなのに、市場に入るとまったく景色が違いますね」
「ああ、西洋のもので溢れているせいね。楽しかった?」
「はい、とても楽しかったです」
「そう! それならよかったわ。ところでさ、アンタはどうしてあの子達と行動を共にするようになったわけ? というか、逃げ出したいとは思わなかったの?」
「逃げ出したい、ですか? そうですね……特に思いませんでした。逃げ出したいほどの理由もありませんでしたし、私を仲間として迎えてくれる彼らにいつしか私も応えたくなったといいますか」
「ふぅん? アンタ、根性はありそうだものね」
喧騒の中、志摩子は湯呑みを持ちながらぽつりとランドンに話し始めた。
「なのに……私は、一人山崎様まで巻き込んで戦火のない場所まで逃げてきてしまいました。らん様のお話を聞いて、彼らが今どれだけ頑張っているのかと思うと……私は本当にこれでよかったのかと、ふと迷ってしまいます」
「そうねぇ……それはまた、難しい話ね」
ランドンは空を仰いだ。軽く深呼吸すると、志摩子の頭をぽんぽんっと叩いては彼女の言葉に答えるのだった。