第33章 心
いつ戻れるのか、そんなことは今はわからない。けれど、志摩子には斎藤との約束がある。それを忘れない限り、彼女がこの場に留まり続けるという選択肢はないのだろう。
「らん様、ありがとうございます」
「馬鹿ね、アタシは可愛い子の味方なだけよ」
ランドンは優しく志摩子の頭を撫でた。掌から伝わる彼のぬくもりと、男性らしい大きな手に志摩子はふっと微笑んだ。見た目は女性の姿をしているものの、服は確かに男性のもので。少しだけ不可思議で、けれど嫌ではない感覚に安堵する。
戦火から遠のき、志摩子達は穏やかな時を過ごしていた。
朝を迎え、予定通りランドンは志摩子を連れて市場へと出向いていた。思っていたよりも賑わっており、活気に溢れていた。
志摩子は彼の見立てで、白いシャツに黒いリボンで首元を飾り、下はコルセットスカートを履いている。着慣れない服に、黒い靴を履いて志摩子は落ち着かずそわそわしていた。
「あの、へ、変ではありませんか?」
「ん? 服装のこと? ばっちりに決まってるじゃないの! とっても可愛いわよ、志摩子ちゃん。もうっ、自信持ちなさいよ! こういうお嬢様な落ち着いた服はいいわね。アンタの雰囲気にぴったり。さあ! じゃんじゃん買い物するわよっ」
「ら、らん様! 待って下さい!!」
嬉しそうに駆け出すランドンに、志摩子は苦笑いで着いて行くのがやっとだった。ランドンにお店の説明を受けながら、見たことないような物を見ていく。勿論洋服も買い揃え、どんどん二人の荷物は増えていった。
たまに見知らぬ人に声をかけられてみたり、骨董品を勧められたりと困惑してばかりの志摩子をさりげなくランドンがフォローしていた。