第33章 心
「私は、大切な人と約束しました。必ず、その方の元へ戻ると。なので申し訳ありません、そのお言葉を聞き入れることは私には出来ません」
「俺も、同じです」
「はぁ……日本人ってほんっと頑固よねぇ。まぁ、そこがいいんだけど……。はいはい! わかったわよ! でも命を大事にね? 投げ出したりしちゃ、ダメよ」
彼の言葉は、厳しくも優しかった。
山崎は土方宛てに文を書きたいということで、一人ランドンに部屋を与えられそこに籠り始めた。居間には志摩子とランドン、二人だけとなる。志摩子が窓を眺めながら、窓の左右にある長い布を不思議そうに掴んでいた。
「それ、カーテンって言うのよ。太陽の光や、夕陽が眩しい時にそれを閉めると光を遮断することが出来るのよ」
「……文明の発達は、素晴らしいですね」
「ぷっ、何それ! こんなの西洋に行けばいくらでも見れちゃうわよ」
ランドンは志摩子の隣に並ぶと、同じく橙色の夕陽を眺め始めた。
「ねぇ、志摩子ちゃん。不安もあるかもしれないけど、今はゆっくり休みなさいね」
「……ありがとうございます、気付かって頂いて」
「別にそんなんじゃないわよ。なんていうのかしらね、たまには女の子らしく血生臭いことから離れてみましょうってことよ。そうだ、明日市場に案内してあげるわ! この辺りはね、異国から取り寄せた物を売ったり買ったりが盛んなの。ふふ、きっと気にいると思うわ」
「本当ですか?」
「そうね、後は……服を揃えないとね。此処では着物は目立つわ、アンタにぴったりの服を選んであげる。明日はアタシが持ってる服を貸してあげるから、それを着て出かけましょう!」
「男の方の物を、着るのですか……?」
「心配しなくても、ちゃんと女性物があるから。変なところばっかり気にしないの!」
ランドンの明るい性格に、志摩子は心の中で感謝する。でなければ、もしかしたら新選組のことばかり考えて暗くなってしまいそうだったからだ。どうか、無事でいてほしいと願うことしか出来ない。もどかしい。けれど、今は目の前にある自分の現状をしっかり見つめ未来のために出来る限りのことをするしか出来ない。