第30章 劔
「誰も、出てこない……っ?」
廊下を走りながら、人の気配を探すものの誰一人姿を現す様子がない。どういうことなのか?
曲がり角を曲がった途端、何かにぶつかった。
「ご、ごめんなさ……きゃっ!」
光の斬撃が見え、咄嗟に身体を床に投げ出して志摩子は避けた。
志摩子がぶつかった相手は、見慣れない服を纏った白髪の人物。
「ら、羅刹……ですか?」
それにしては、様子がおかしい。見慣れた着物を着ておらず、本当に今まで見たことのない防具と衣類を纏っている。すると、その白髪の人物の背後から誰かが静かに現れた。
「初めまして、志摩子さん。お元気そうでなによりですね」
「貴方は……?」
志摩子が顔を上げた先に居たのは、お坊さんを連想される風貌に少し歳の取った中年の男性。相手は志摩子を知っているようだが、志摩子自身は相手にまったく見覚えがなかった。
「そうか、君は私を見たことがないんだな。無理もないか……雪村家分家と言えば、陽の当たらないところを常に徘徊している」
「雪村? 貴方は、雪村家の分家の者だというのですか?」
「そして私は……千鶴の父親だ」
「千鶴様の!? ということは、貴方が綱道様ですか? よかった……っ、千鶴様もお喜びになります! ですが、あれほど探しても見つからないと仰っていた綱道様が、何故新選組の屯所に?」
「それはですね……」
綱道が指を鳴らせば、志摩子の目の前にいた見慣れる羅刹は、まるで人形のように動き始める。手に刀を握り締めながら。