第30章 劔
「そうやってお前は、誰かに守られながらそして死ぬんだッ!!!」
銀色の刃が振り下ろされる。
――目を開けろ。
誰かの声が、志摩子の耳に届いた気がした。反応するように、我に返り目を開けた。
志摩子には、全てが見えていた。瞳が金色色に光り、南雲の動きがゆっくりと止まっているように見えた。この刃の向かう先は、終着点は、どう避ければいいのか。瞬時に情報だけが、志摩子へと流れ込んでくる。
そこからは、早かった。震える足を庇うように、手を使い刃の軌道を間一髪避けた。
「何……っ!?」
流石の南雲も驚いたのか、目を見開き志摩子を見た。彼女の瞳が金色に光っているのに気付き、小さく舌打ちをする。
「"千里眼"とかいう、厄介な力か。気に食わない……どうして蓮水家ばかり、特殊な鬼が生まれるのか。僕が特別であれば……あんな苦しい思いをしなくても済んだのにっ!!」
「や、やめて下さいっ!!」
じわじわと恐怖が芯から志摩子を襲う。けれど、今目を閉じてはいけない。そんな気がした。あの声は、一体誰だったのか。いくら考えても、再びあの声が聞こえてくることはなかった。南雲から視線を逸らさずにいれば、彼の刃に未来は見える。それに気付いた志摩子は、一歩一歩と確実に彼と距離を取る。
「ちょこまかと……ッ!」
だんだん乱暴な刀の使い方に、志摩子もただ必死に避け続けるしかなかった。完璧に攻撃を避け続ける志摩子に、南雲は徐々に苛立ちを膨らませていく。
一か八か。志摩子はようやく震えの治まった足で、一気に部屋を飛び出した。
大きな音を立て、襖が斬られる音が盛大に屯所内に響く。流石にこの音で、反応を示さない者はいないだろう。そう思っていたのだが……。