第26章 命
「……っ」
「え? 何? 何か言った? 志摩子ちゃん。ごめんね、よく聞こえないや」
沖田はそのまま睨み付けるように、天を見つめる。
「悪いけど、志摩子ちゃんは君とは一緒に行かないよ」
「……いい加減目障りだね」
天の顔色が変わる。不機嫌そのものとなった彼は、薙刀を構え真っ直ぐに沖田へと刃を向け振り下ろされる。
「天ッ!!」
「な……にっ」
志摩子は天の名を大きな声で叫ぶと、何かが天の攻撃の軌道を逸らした。逸れた刃は、空を切り裂くのみ。
「志摩子ちゃん……なんで、そんなもの……持ってるの」
志摩子の手には、家紋の入った小刀。鞘から抜かれた小刀は、銀色の刃を見せ先程天の攻撃が来たと思われる軌道にいた。
「ふぅん……姉様、それでボクの軌道を逸らしたね? 目を使って」
「……」
沖田が志摩子を見ると、瞳が金色に光っていた。やはり彼女も、紛れもない鬼。自分達とは異なる者達。そう改めて認識した瞬間だった。
「その家紋、風間の家紋か」
「滑稽なことだな。沖田総司、あの池田屋の時に交えた貴様の剣もここまで落ちたか」
声に反応するように、天が空へと顔を上げた。屯所の屋根に乗り、上から戦況を見下ろすのは風間千景だった。
「風間の大将か……。久しぶりだねぇ! 元気にしてるっ!?」
「……相変わらず煩い奴だ。俺が来たからには、護身鬼でもあるお前に志摩子を渡しはしないが?」
「大将とボクじゃ、今はまだ分が悪いかな。必ずあんたを倒す手段を整えて、待ってるよ。ボクらの取っておきの……”羅刹隊”でね」
そう言葉を残すと、天は姿を消していた。志摩子も顔を上げ、風間と視線を合わせる。