第26章 命
「大事……ねぇ? 人間じゃないのに?」
「人間とか、鬼とか、関係ないよ。志摩子ちゃんは志摩子ちゃんだから、僕はどっちだとしても……彼女のことを心から大切だと思う」
沖田は口元の血を拭う。覚悟を決めたような、強い瞳が天を射抜く。
「どうして……どうして私にそこまでするのですか!!」
「……どうして? 志摩子ちゃんも面白いことを言うなぁ」
天と沖田の目が細められる。互いに一定の距離を取り、ぐっと構えて腰を落とす。
――刹那、同時に地を蹴った。
「僕が君を、好きだからだよ」
沖田の刃が、渾身の一撃を込めて天の肩を貫いた。
だが同時に、沖田の腹へと深く天の薙刀が食い込んでいた。
「総司様……ッ!」
ついに志摩子が耐え切れず、駆け出す。それさえも天は嘲笑うように、刃を抜いて志摩子の方へと沖田を蹴り飛ばした。
「ぐっ……」
「きゃっ!」
「くくッ……実に滑稽だな、人間!! ああえっと、沖田総司だっけ? 鬼を好き……? あっはっはっ! 笑える! 最高に笑えるよお兄さんっ」
志摩子は自分へとぶつかるように飛ばされた沖田を抱き、彼の傷口へと目をやる。赤黒い血が流れ地を鮮血へと染めていく。何処か沖田の顔色も、青白くなっているように思う。
「姉様がボクと一緒に行ってくれるなら、これ以上の殺生はしない。約束する」
「……本当、ですね?」
「勿論だよ。ボクは姉様の弟なんだから」
ぎゅっと腕に沖田を抱きながら、志摩子は沖田の顔を見てぐっと何か決断したように表情を引き締めた。
言葉を発しようとした時、沖田はそれを邪魔するように力なく手を伸ばし、志摩子の口を塞いだ。