第25章 幸
「あと、二人……」
血で汚れた刀を、雨で洗い流す。
ここ最近、同じことばかりしているように思う。だが俺がせねば、志摩子を本当の意味で自由にしてやることは出来ない。全ての護身鬼を殺す、でなければ……俺はあいつを、傍に置くことなど出来はしない。
自らの手を見つめてみれば、洗い流されたはずなのにいつまでも血で汚れているような気がして、俺はいつまでも自分の掌を見つめていた。
「志摩子……」
何度あいつの名を口にしても、俺の心が満たされることはない。
最後に見たあいつの顔は……血で汚れていた気がする。ああそうだ、あの愚かな人間のせいで俺はあいつを斬ったのだ。忌々しいことだ。純血の鬼であるあいつのことだ、死んではいないだろう。
俺の血を分けてやったのだ、生きて……もう一度あの笑顔に会いたい気がする。
「会いたい……か。ふっ、俺もつまらん男に成り下がったものだ」
いつになれば、俺は志摩子を迎えに行ってやることが出来るのだろうか。
少なくとも、護身鬼を全て殺さなくてはそれも叶わぬ。
「風間、こんなところにいたのですか」
「天霧か……」
「いつまで江戸にいるおつもりですか? そろそろ動かなければ、薩摩藩に裏切りと見なされます」
「わかっている。もう行く」
薩摩の輩に借りがある俺達西の鬼は、鬼でありながら人間の肩を今は恩返しのためと持っている。だがそれも時期に終わる。そうなれば、俺達は西の鬼は身を隠す準備を整えねばなるまい。
そうなれば、簡単に志摩子を迎えに行くことも出来なくなりそうだ。
それまでには決着をつけなくては。俺は静かに刀を鞘におさめた。