第25章 幸
「京の都に戻りますね?」
「わざわざ俺に聞くな。当然のことを」
新選組に身を置くお前は、俺の知らないところで知らぬ男に触れられて俺を忘れていくだろうか。迎えに行くなどと……そんな言葉だけの約束を、お前はいつまで覚えているだろう。
月日は流れ、俺もお前も次に会う時には出会った頃とは違っているだろう。
「風間、雪村の女鬼の件はどうするのですか? 雪村千鶴のこと」
「……あいつは、綱道と知り合いなのだろうか」
「さあ、そこまでは。本人に確認してみないことには」
「まったくもって、面倒なことだ」
雪村の女鬼が生きていたことは、俺にとっては悪くない誤算だ。
もしも志摩子が……俺と共に行かぬというのならば、いっそのこと雪村の女鬼を。世間的にはそう思うものの、どうにも俺の心はそうは思わないらしい。こんな気持ちを、俺は知らない様に思う。
「不知火はどうした?」
「今日は用事があると言っていました」
「そうか……戻り次第、話しておきたいことがある。雪村千鶴についてだ」
「わかりました」
雪村千鶴。貴重な純血の女鬼、雪村が滅ぼされでもしなければ俺は志摩子と再会することもなかったのかもしれないな。小さい頃に一度顔を見てから、どうせもう二度と会うこともないと思っていた。
その頃から、俺は風間を継ぐ者として東国雪村の女鬼を嫁にという話が出ていたからだ。
雪村は蓮水よりも濃く、強い純血鬼が多い。その証拠に、蓮水家で純血の鬼の血を引くのは先程の護身鬼が言っていた通り、志摩子と蓮水天だけだ。志摩子はわかるとして……何故蓮水天も? 志摩子の兄、弟、姉、その全てが血の繋がりを持たないと聞いているが。
義弟でも純血の鬼の血を引く者がいるというのか。珍しいことだ。
蓮水を仕切っているあの蓮水栄でさえ、義兄で半分人間の血を引いているというのに。蓮水天が他の護身鬼達と行動を共にしないのにはそこに理由があるのか?