第23章 華
「……あの、一様」
「なんだ」
「私は、内偵に失敗したのでしょうか」
「案ずることはない。元は暴れ始めた平助達が悪い。けしてお前のせいではない」
「そうですか……」
「志摩子、その着物はどうした?」
「え?」
斎藤の視線に気付き、顔を上げる。一歩先を行く斎藤は振り返る。足を止め、二人して見つめ合った。
「あ、えっと……途中で千景様にお会いしました」
「風間に? 何をされなかったのか!?」
「はい! 大丈夫です。着物を、頂いただけです」
「……それで、いつもと違う着物を着ていたのか」
「はい」
「とても……高価そうだ」
「そうですね、たぶんとても高価なものだと思います。ふふっ、変な人ですよね。何をするでもなく、私に着物だけ渡して帰すのですから」
「……お前はいつも、俺ではない男と一緒にいることが多いな」
斎藤は徐に志摩子に近付くと、髪を一束掬い上げる。
「一様……?」
「気付いているか? 副長がお前を見つめる時の、あの優しい眼差しを。お前にだけ我儘を口にする、総司の態度を。俺は……知っている。その全てが、お前にだけ向けられていることも。どれも、お前だからこそ与えられているものなのだと」
「……つまり、何が仰りたいのでしょう?」
「志摩子に大切な人はいるか? 想いを寄せる、大切は人は」
「……えっ」
視線を絡めると、斎藤は急に我に返り志摩子から距離を取り離れる。気付けば、斎藤の顔はみるみるうちに赤く染まっていた。