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薄桜鬼 蓮ノ花嫁

第23章 華



「千景様!?」

「ほぉ……淡い桃色。お前が着なさそうな着物だな、こういうのが好きなのか?」

「い、いえ……これは……選んで頂いたもので」

「そうか」


 風間は志摩子の手を引いたまま、隣に座らせる。二人、腰を下ろして会話はない。志摩子も突然のことに、どうすればいいのかわからないでいた。


「志摩子」

「は、はい」

「お前にはやはり……その色の着物は似合わん」

「え?」

「これを……やろう」


 風間が部屋の隅にあった木箱を持ってくると、蓋を開け志摩子へと見せた。いつも来ていた着物とは違う毬の柄の入った、深い紫色の着物。触れてみれば、とても高価そうだ。志摩子は驚いて風間へと顔を向けた。


「こ、このような高価なもの! 頂けませんっ」

「何故だ? 俺がお前にくれてやると言っている。遠慮なく受け取れ」

「ですが……っ」

「これは目印だ」


 風間がそっと、志摩子の頬に触れる。


「何処に居ても、俺がお前を見つけられるようにだ」

「千景様……っ」


 ゆっくりと風間の顔が近付いて来る。志摩子は思わずぎゅっと目を閉じた。すると……風間は舌を出しぺろっと彼女の唇を舐めると、そのまま離れていった。


「ここでの用事は済んだか?」

「……え? あ、はい」

「ならばその着物、隣の部屋で着替えて来い。俺に、見せろ」

「え?」

「まさか、その着物で外に出ていくわけでもあるまい? 本物の芸妓と間違えられ、門番に止められるのが落ちだぞ」

「……っ、そうですね。では、着替えて参ります」


 志摩子が隣の部屋へと消えると、風間は座り直し酒を一口飲む。だんだんと、部屋の外が騒がしいようにも思うがそんなことは彼には関係のないことだった。

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