第19章 道
「志摩子は……渡さねぇ」
決意に似た炎が、彼の瞳の奥で静かにその時を待つかのように、小さく火を灯し始めていた。
◇◆◇
――慶応元年 夏
「志摩子さん!」
「……はい?」
廊下を雑巾がけしていた志摩子に、突如千鶴が声をかけた。
「今から、千ちゃんとお団子を食べに行くことになったんですけど、一緒にどうですか?」
「いえ、私は遠慮しておきます。どうぞお二人で楽しんできて下さいね」
「そう……ですか? 原田さんが見張りでいてくれるので、安心ですよ!?」
「ふふっ。もしかして、私が最近元気がないと……そう心配して下さっているんですか?」
「あ、えっと……」
「千鶴様は正直ですね。ですが、気を遣って頂かなくても私なら大丈夫ですよ。あ、お掃除もこれで終わりましたし」
「でも……」
「千鶴様こそ、たまには息抜きして下さいね。お父様の件、あまり事が進んでいないようですし。寧ろ千鶴様の方が、元気がないように私には見えます」
「あはは……」
千鶴が苦笑いを浮かべると、志摩子は微笑みかけて彼女の背を押した。
「はい、いってらっしゃいです」
「……では、お土産を持って帰ってきますね!」
「ふふ、はい」
千鶴は志摩子へと笑い返し、元気よく走って行った。
「あれ、今の千鶴ちゃん?」
「あ……総司様。って、その恰好はどうなされたのですか?」
「どうなされたって、見てわからない? 寝汗かいてたから、ひとっ風呂浴びて日向ぼっこしようかなっていい場所を探してるとこだよ」
「いくら夏だからって、その状態ではお体に障ります」
「うわっ……!」
総司は濡れた髪を下ろし、肩に手ぬぐいをかけている状態だった。見兼ねた志摩子が沖田の手ぬぐいを取り上げ、縁側のようなところまで引っ張り座らせた。彼の髪をわしゃわしゃと拭く。
最初は沖田も嫌がってみせるものの、暫くすると大人しくなり黙って志摩子の手に委ねていた。