第9章 8日目
「殿」
声が、とても近い。
「もう、陽がのぼりますぞ」
もう朝が来てしまったのか、と私は腕を動かす。鉛玉を喰らった腕に痛みが全くなかった。あぁ、そんなに寝ていたんだろうかと。
にしても私は、長い夢を見ていたんだろうか?幸村たちと別れる夢だなんて、笑えてきてしまう。
「皆が、待っております」
「っ...?」
「ちゃんっ!?」
「真田!目を覚ましたぞ!」
突然光が入ってきて、思わず目を強く瞑った。
聞き覚えのある声に耳が反応する。
「...わた、し」
「待っていろ、真田を呼んでくる」
三成が私の頭を軽く撫で、外に出て行った。音がとてもハッキリ聞こえた。遠くで、草木を踏みしめる音がした。
「ちゃん、頭とか痛くない?」
風魔も心配そうに私の顔を覗き込んでは、汗を拭ってくれる。体が火照っている。熱が出ているようだ。
「あの...私、生きてます...?」
「亡霊だったらこうして手も握れないと思うけどなぁ」
へらりと笑い、私の手をぎゅうっと握ってくれる。佐助の手は少しだけ震えていた。
するとむこうで扉が開く音がし、こちらに早歩きでくる音がきこえる。
「殿っ!!」
泣きそうな顔で、幸村が私を見る。
よかった、顔にあった傷も全て消えているようだ。でも、虎耳が情けなく垂れていた。
「あはは...生きてますって」
取り敢えず、上半身を起こしてみた。
「だ、大丈夫か...?」
多少目眩はするものの、まぁ驚いたことに体は軽くて驚いた。
「...ん、んんっ!?」
なんとなく髪の毛をといてみると、今までに感じたことのなかった違和感が頭頂部付近に感じた。
「え、あっ、私...!」
「にあってるよね~旦那~」
「うむっ!」
風魔は黙って水が入った桶を渡してくれた。鏡がわりに使えということなのだろう。
「....こっこここここれは!?」
「狼だ」
「私が!?狼!?」
三成は冷静にそう言うが、私の頭はまだついていっていないのだ。
ふと腰の辺りを触ってみると、ふわりとした感覚もあった。確認はきちんとしていないが、多分尻尾なのだろう。
「ほ、ほんと、に...?」
「狼でござるよ?」
「狼だね」
「狼だな」
「...」
狼かぁ、と私は再び寝た。