第9章 8日目
「そういえば」
「如何致した?」
落ち着き、今ようやく思い出したことがある。
「あの小屋にあった写真ってもしかして...」
すると幸村は照れくさそうにはにかみながら言った。
「某と、父上でござるよ」
だがよく考えてみれば、幸村の頭にはまだ耳がなかったし幼い頃だと思った。そんな前に写真は存在したのだろうか?
「あれは、父上の元を訪ねた南蛮の者が記念にと言って撮影して下さったのだ」
その場で直ぐに現像してくれたらしい。
母親のことを聞けば、もうその時既に病に倒れ亡くなっていたのだとか。
「某には、兄上がおりました。信之というとても勇ましく、強いお方であった 」
最後の大戦では真田家は東西にわかれ血を残そうと戦に挑んだという。血が繋がる兄弟なのに敵同士にならなければならないというのはどれだけ苦痛だったのか。
「最終的に兄上がついている東軍が勝ち、今でも真田の血は途絶えておらぬということだ」
「幸村は...」
気にしてない、そういうように首を横に振った。
「当時、某は恋にうつつを抜かすほど余裕が無かったのだ。兄上は直ぐに夫婦となり、某は遅かったが一応な」
幸村は子孫を残すことに成功したが、死ねぬ体になり子供や奥さんをおいて死んだ事にしてしまったらしい。子供と奥さんは北の方で匿ってもらったのだという。
「もともと好きで一緒になったわけではなかったのだ」
所謂、政略結婚。
恋や愛など感じたこともなく、ただ義務の様に過ごしていたんだと言う。
「だが、初めて...溺れそうになった」
「溺れる...?」
気が付けば幸村の腕の中に閉じ込められていた。とても大きく、あたたかく、まるで昔から私の居場所だったと言うように落ち着く様なところだった。
「本当に...良いのだな」
どれだけ心配症なのだろうか。
非力な私でも引き離せるようにとても弱い力で抱き締めてくれている。
「其方を幸せにする、...そんな自信は全く無い」
「はい」
「今だとて人間から離させて、この腕の中に閉じ込めてしまっている」
「...はい」
「これから、恐らく辛い目に沢山合うだろうし、其方を満足させられるかなど分からない」
何故、こんなにも声が震えているんだろう?
「後悔、させたくない」
「...幸村?」
「怖いのだ」
...なんだか、笑ってしまった。
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