第8章 7日目
流れて行く森林の景色は、なんだかもう見慣れた景色になっていた。
耳元で聞こえる風を切る音、頬に当たる少し冷たい空気、風になびく髪。
「...!!」
少し道を外れたかと思うと、いつの間にか崖の上に立っていた。
「ゆ、幸村っここは」
崖の上から見える森を一望する。
どうやら私達がかけ巡っていた森を見下ろしているらしい。いつのまにかこんなに高いところまで来ていたのか。
「緑が、たくさん...!」
馬鹿みたいに大きくて広くて、なんだか自分自身がとても小さな存在に思えてきた。
きっとこの森も、色々な困難を乗り越え続け、様々な幸福をも手に入れてきたんだろう。
「...有り難うございます、幸村」
軽く頷き、幸村達は元来た道を少し戻り、分かれ道を左側に進んだ。
こうして風と一体になって目を瞑ると、私までも獣になってしまうのではないかと思う。きっとなれたら幸村や佐助、風魔、三成とずっとずっと一緒にいられるんだ。
でもそうなれば私のことを思い切りしかり飛ばしてくれる。人間として生きろって、いくら私が泣き付いてもそういうんだと思う。
大切にしろって。
「ちゃん?」
目をつぶっていたら、ふいに右から声がして横を向いた。
そしたら佐助がなんと併走していたのだ。
「えっ、え!?ちょっ」
「前に言ったでしょ?忍だったって」
こんなの朝飯前さ、と驚く私を嬉しそうに見ていた。
どうやら狐の姿に飽きたらしくてなんとなくこの姿で走っているそうな。
「やー、やっぱりこの姿も楽しいよ」
「それは良かったです」
本来なら私はこの風を感じる立場なんかになれなかった。なのに私はこうして、風を感じる立場になっている。私は普通の人間で、彼らは普通じゃない人間。それなのに寄り添うことができている。
「もうすぐで森を抜けるよ、な?」
誰もいない森に話しかけた佐助。
すると一層強い風が私達を吹き付け、強く目をつぶってからゆっくり開くと、隣には風魔も走っていた。
「しっ忍って本当に凄いんですね...」
「情報収集もお手の物ってことさ」
「それだけじゃないですけど...」
本当、人間ってわからない。