第5章 4日目
私は珍しく早起きをした。
目覚めが悪い私はいつものろのろと起き出して2人を心配させている。そうだ、今日は朝ごはんを作ってあげるなんてことをしたら喜ぶだろうか。
だがあるのは山菜と肉だけ。スープを作ろうと外へ水を汲みに行った。
「あー重い...」
来てみてから後悔した。やはり誰かを起こしてついてきてもらえば良かったと。このバケツの重さを軽減できない。力仕事はそんなに得意ではないのでかなりの重労働。
こんなことでと思われるかもしれないが、甘やかされた狩人だから、先日もそうだったが血を直視できないのだ。
「あそこまで行ったら...休憩...」
「某が手伝いますぞ?」
「ありが...っ!?」
さも最初からいたかのように後ろにニコニコしながら立っていたのは幸村だった。
「いっいつから!?」
「家を出る時からずっとおりましたが」
自然で生きている彼なのだ。気配を消すのは簡単なのだろう。
驚きのあまりバケツはいつの間にか足元に転がっていたのにそれに気がつけなかった。足元は水浸しだ。
「某が汲んで参りましょう」
「で、でもっ」
私からバケツをとって、川へ行ってしまった。
今日は私が2人の為になにかやってあげようと思ったのに結局手伝わしてしまった。
「...いらぬ世話、でございましたか?」
「まさかっ!助かりました」
そう言うと嬉しそうに頷いて、私の右手を握り締めて小屋へ向かった。
え?握り締めて...
「ちょっ、えっ!?手!手!!」
「え?あ、すみませぬ、ここらはぬかるみます故手をと思い...」
「あ、そうでしたか、あ、はい」
心臓が飛び出そうなくらいどきどきしてもう周りの景気が気にならなかった。
兎に角早く小屋についてくれと願うばかり。
「つきましたぞ!大丈夫ですか?」
「はい、おかげさまで」
私が幸村にそういうと嬉しそうに笑ってからしゅんとしてしまった。
どうかしたのだろうかと少し様子を見ると
「名を、頼みます」
「え?」
「名をっ、よ、呼んでくださらぬか?」
少しの間のあと、私はようやく言葉を理解して笑えた。なんだ、そんなことかと。
「幸村、さん」
「呼び捨てで構いませぬ!」
やけに積極的だな、と思いながらもう一度名前を呼んだ。
「幸村」
嬉しそうにくしゃ、と顔を綻ばせ耳まで赤くさせてしまった。