第3章 2日目
「旦那」
俺は猿飛佐助。名前の割に姿が猿じゃないのはなんだかもう慣れた。
「なんだ、佐助」
この人は俺の尊敬する人真田幸村。
旦那はどこか抜けてて、こんなんで虎をやっていけてるのか心配なくらい優しくて温かい人だ。
狐の俺は本来虎である旦那に食われるべき立場なのに、なんてことか大怪我をおって死ぬ寸前だった俺を介抱してくれた。こうして今生きているのは旦那のおかげ。
「あの女、どうするのさ」
優しすぎる旦那だから、きっとあの女は食わずに生かしておくんだと思う。然るべき時が来たら村に帰すんだと思う。
だけどそんなの、俺は反対だ。きっとあの女は村に帰ったあと珍しい獣がいたとかなんとか言って、俺達を捕らえにくる。
「...佐助が考えておる事はわからなくもない。俺だとて完全に信じたわけではない。」
ほらみろ、やっぱり信じてなかった。どこかで安心してる俺は、旦那に頼らないと生きていけないんだ思う。
「しかし俺はな、もう人間と関わらずに生きていこうなど...そんなこと無理だと思っている」
確かに、俺だってそれはわかってる。
この俺達の縄張りである森だって、前にいた林だって、もっと前にいた古民家だって、全ては人間が管理し、人間が育て人間が壊していくものなんだ。
だから俺は人間が嫌いだ。なんで壊していくのかわからない。なんで俺達の居場所を奪っていくのか、わからない、わかりたくない。
「落ち着け」
旦那はいつも、俺がこうやって頭をぐちゃくちゃにさせると優しく微笑んで撫でてくれる。こうしてくれるだけで、俺は救われてるんだ。
「俺達はな、守らねばならん。その為には分り合うことも必要だ。わかるか?」
「...うん」
「壊し、生み、育て、また壊す。きっとそれを繰り返して成長するのが人間なのだ。俺たちはその繰り返しの中に組み込まれた一部」
「そんな!」
そんなの嫌だ、だったら俺達が壊されるのは目に見えてる。そんなの怖すぎる。怖い。
「人間もまた、同じように朽ちるだろう。何も俺たちだけが壊れていくわけではない」
自然には逆らえないのだ。
その旦那の言葉に、何故だか深く傷ついて、安心したような心地になった。
その気持ちが生まれたのは何故だが俺には理解できない。でも、全部全部、全部最後は同じなんだって思ったらなんか気が楽になった。
ほら、また旦那に助けられた。