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糸車

第2章 兆候


それから数日が経った。

彼女の命令通り、極力起き上がらずに安静にしていた。
それに彼女も手厚く看病してくてれいる。
以前よりはだいぶマシになった。

なのに、どこか体の奥にある怠さは消えなかった。

少しだけ重い風邪だと思っていたが、想像以上に僕の体は疲労を抱えていたみたいだ。

天井のシミを何かに見たてる暇潰しも飽きた。
それに、いつまでもこうしているわけにはいかない。
統一されたばかりの日の本は、まだ土台がしっかりしているわけでは無い。
ちょっとした反乱によって総崩れになる可能性もあるのだ。

秀吉に政治機関の確立を提言しなくてはならない。

「半兵衛様…?
夕餉をお持ちしましたが、起きていますか?」

襖の向こうから聞こえる彼女の声。

「あぁ、起きているよ。」

失礼します、と言って入ってくる彼女に制される前に僕は上体を持ち上げた。
一瞬目眩がしたが、持ちこたえる。

「半兵衛様、無理に起き上がらなくても。」

「いいや、だいぶ楽になったんだ。
明日にはもう治ると思う。」

少し嘘だった。
彼女は大きな目で僕をじっと見つめた。

「…な、なんだい?」

嘘を見破られたか、と少し狼狽してしまった。
彼女は変なところに鋭いのだ。
知らぬ顔の半兵衛、失敗したかもしれない。

「…半兵衛様。」

「うん?」

「よかったです!」

嘘をおっしゃいますな!と言う叱咤が飛んでくるという僕の予想とは裏腹に、彼女は安心と喜びで顔をいっぱいにした。

「秀吉様にもお伝えしておきますね!
きっと秀吉様も安心されます!」

「あぁ、伝えておいてくれ。」

「じゃあ尚更、今日しっかりと休んで、明日に備えましょうか。」

彼女はそう言って、僕の口にお粥を運んだ。
食欲があるというわけでは無かったけども、彼女の手料理は美味しいし、残して彼女を傷つけてしまうのも怖かった。

なんとか完食をすると、彼女は着物を掛け直す。
部屋を出て行こうとする彼女を呼び止めた。

「今日はもう行ってしまうのかい?
いつも少しだけ談笑するじゃないか。」

彼女とのくだらない談笑は、天井を見つめて眠気を待ち続ける僕のなかの唯一の楽しみだった。

「明日には治りそうなのでしょう?
ならば今日は早くおやすみになってください。」

「いや…でも。」



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