第3章 こんにちは、良い天気だね
「…ふぅん。訳アリで逃亡中ね…」
勿論魔神族の事は伏せておいた。
「うん。…で、バン君はなんで、この町にいるの?」
「バンで良いぜ。…俺がいる理由ねぇ…一応、これでも使われてる身なんだわ。」
「へぇ…!」
それは知らなかった。だから生傷が絶えないのね、まだ不死身じゃないし。
「…ルシウスはいつまでこの町にいるんだよ。」
「んー?旅の資金が貯まるまでかなぁ…1ヶ月いるかなってくらい?」
「そうか…」
「何、一緒に行きたいの?」
「あぁ。」
あっさりと認めた彼は悲しそうで。からかってやろうと思ったけど、言葉を飲み込んだ。あちらこちらに見える痣や切り傷が、辛さを物語っている。
「バンは、何処で使われてるの?」
「俺?俺は…」
聞けば、豪邸の下働きらしい。…あそこの主って、たしかデブなザビエル禿げだったな…
「止めないの?」
「行くアテもねぇし…んな大胆な事を出来るくらい胆は据わってねぇよ。」
苦笑いしながら頬をかく姿は、とても悲しかった。
「さて…道草はこれくらいにしねぇとまたブン殴られるな…じゃ、」
「バン!」
「ん?」
「奪うよ!」
「…は?」
「君の事をさ!奪うのさ!」
唖然としているバンを置いてさっさと宿に帰る。さて、予定よりゆっくりはしていられないみたいだなあ。
(今日から忙しくなるぞ…!)
「おばちゃん、お手伝いする!」
それから私はコツコツとお金を貯めた。予定より、少しだけ遅れたけど我ながら頑張ったと思う。勿論、バンへの差し入れは忘れちゃいない。
「あのね、お金が貯まったからもう行かなきゃ。」
「…そうか。意外と短かったな。」
「そうだねぇ。」
「俺、ルシウスと会うの、嫌いじゃねえぜ。」
「差し入れ貰えるから?」
「それだけじゃねえよ。」
まぁ、差し入れは嬉しいんだけどよ。笑いながら彼は続けた。
「お前といると、自分が旅した気分になれるんだよ。」
そういった彼の笑顔はとても眩しかった。
じゃあ、と別れた帰り道。宿を出て、荷物を持って私は呟いた。
「私、言ったよね?」
ある大きい門の前で、足を止めた。
―そこは、バンが使われている屋敷。
「君を、『奪う』ってね♪」