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【黒執事】短編まとめ

第2章 トリッキィヴィッキィ【グレル/微甘】


目当てのものはキャビネットの中からすぐに見つかった。
「こちらですね」
「あ~んこれこれ! 助かったワァ、失くしたなんてウィルに聞かれたらなんて言われるか……」
 書類を見ていたグレルさんの目が、ふと私の机の上の小さな紙袋に吸い寄せられる。

「……アンタまさかとは思うけどメイク道具全部あそこに入れてるワケ? ポーチくらい持ち歩きなさいよね」
 他のいくつかの紙袋に余ったものをまとめたせいで、袋の口からはアイライナーやらリップブラシやらがぴょこぴょこ飛び出していた。
 私は慌てて事情を説明する。
「あれ、全部引き取り手を探してる貰い物なんです。私のものではないんですよ」
「そうなの?」

 ふと気づいた。グレルさん、割と女性的というか中身は女性らしいって聞いたことがあるし、現に今もメイクしてるじゃないか。
「あの、よければなんですけどいくつか持っていきませんか?」
 そう尋ねると、彼の目がちょっと輝いた。
「……いいの?」
「合うのが残ってればいいんですけど……朝はこれの3倍くらいあって、庶務課の子たちが結構もってっちゃったので」
 私が言うと、彼は書類を投げ出すように私の机の上に置いて、楽しそうに紙袋を物色し始めた。
 私はそれをファイルにまとめて持ち出しやすいようにしながら、その様子を眺める。
 アイシャドウ。リップ。マスカラ。つけまつげ。チークや、変わった色のアイライナー。
 きらきらとしたパッケージのそれらを、やっぱりきらきらした目で眺めるグレルさんは、庶務課の女の子たちと同じくらい可愛らしかった。

「ヤダ何これ、どう使うのよこんな色~」
「パッケージの後ろに色の差し方描いてありますね」
「これ限定色? 使うなら今しかないわね……貰っていい?」
「どうぞどうぞーガンガン持ってってください」
 ああでもないこうでもないとやいのやいのしていたら、紙袋の奥からころり、と銀色の塊が転がり出てきた。小さな貝の形をしていて、コンパクトのように上下に開くみたいだけど、フェイスパウダーにしては小さい。

「これ、何かしらね」
 グレルさんがかぱり、と貝の口を開ける。上下に分かれた貝殻の上は鏡、下の段は真っ赤なルージュだった。
 仄かに薔薇の香りがする。香りつきのリップ。裏返すと、そこそこ名の知れたメーカーのロゴが刻まれていた。
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