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【黒執事】短編まとめ

第2章 トリッキィヴィッキィ【グレル/微甘】



 死神派遣協会庶務課の朝は――まあ早くもなく、遅くもない。回収担当は時間関係なしだから、本当に大変だと思う。
 定時に間に合うように席に着いた私は、深くため息を吐く。
「おはよう」
「あ、おはよう」
「おはよー」
 あいさつしながらデスクの後ろを通り過ぎて行こうとする同僚の女の子の腕をがっちりつかむと、私は弱り切った目で尋ねた。
「……ねえ、化粧品、いらない……?」

「えーっ、何これすごい」
「あっ、これ廃盤になってたやつじゃない! どうしたの?」
 庶務課は女の子が多いから、持ってきて正解だったかもしれない。大量の化粧品が詰まった小さな紙袋いくつかをどん、どん、と机の上に並べながら、私は答えた。
「知り合いが雑貨屋さんを閉めたんだけど、引っ越し手伝った時に返品できなかった化粧品いっぱい押し付けられたの」
「そんなことあるんだー」
「欲しいのあったら持って行っていいよ。私こんなに使えないし」
 苦笑すると、同僚の一人はけらけらと笑った。
「顔いくつあっても足りないよこんなの」
「それかすっごい厚化粧じゃないとね!」

 化粧品はあっという間にはけていった。普段は手を出さない変わった色のものでも、貰えるとなったら欲しくなるらしい。残ると思っていた奇抜な色のものがはけて、ほっとしたところで始業時間になった。

 夕刻。定時にはぎりぎり上がれそうだけど積みあがった仕事が多い。やり方考え直さないとなあ、と思いながら眠気覚ましのガムを噛む私の肩を、化粧品を手にした同僚がお礼の言葉とともに叩いていく。
 気づくと、庶務課オフィスには私しか残っていなかった。
「……アラ、あんた一人でやってるの?」
 ぱっと振り返ると、課の入り口のところにグレルさんが立っていた。回収課の人がここまで来るのは珍しい。
 慌てて立ち上がりながら、私は彼に尋ねた。
「あ、はい……どうかなさいましたか?」
「あ、この間配られた書類なんだけど、余分なのってここに保管されてナイ? 失くしちゃって」
「ああ、先週の……ちょっと待ってください。多分あると思います」
 華やかで有能でかつエキセントリック、派遣協会の中でもいろんな意味で目立つ彼と話したことは、仕事でもそんなにない。雑談? ないない。
 性格きついって話も聞いていたので、ちょっとどきどきしながら書類を探す。
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