第2章 さあ、仕事を始めよう。
俺は、ずっと心配だった。
数日前、俺が昼飯に誘おうと思っていた、赤髪の少女は、気づいたら、彼女よりふたまわりはあるであろう、賞金首の男に絡まれていた。
助けよう、咄嗟にそう思った。
海軍を呼んだほうが、とも一瞬思ったが、すぐに頭を横に振る。この島は、商業が活発なだけのただの街。国でもなんでもなく、ましてや世界政府に加盟している訳でもない。島の地理上、2,3か月に一度、海軍本部中将が乗っている船が、”物資の補給”と称して訪れるが、そんな場所で、たった一人の少女のために海軍が、しかも新世界で動いてくれるとは、到底思えなかった。奴隷売買など日常茶飯事なのだ。しかし、と思う。
俺は商人だが、普通の商人ではない。まあ、積んでるものは、酒やら魚、肉、物資とかなり普通だが。腕っぷしには、かなり自信がある。なにせ、新世界の凶悪な海賊たちから大切な商品を守りつつ、海を渡らなければならないのである。逃げ足の速さにも自信がある。とにかく、彼女を逃がそう、あれでは、彼女は即奴隷行きである。
俺が走り出したその時、賞金首の巨体が揺れ、いきなりひっくり返った。巨体がピクピクと痙攣している。失神しかけているようである。
なにが起こった?
俺は突然のことに固まってしまった。賞金首とその仲間たちが、「あの、おんなぁーーーーーー!!!俺たちをコケにしやがったーーー!!」と口々に叫ぶ。捕まえろ、奴隷にしてやる、恥かかせやがってなどと物騒な内容が飛び交う。どうやら彼女は自力で逃げ出したようだった。彼女の華奢な体のどこにそんな力があったのか、本当に不思議だったが、これはまずいことになったと俺は思った。
彼女の珍しい髪だけでなく、そのギャップが男たちの心に火を点してしまったらしかった。
それから幾何もたたずに、町中が赤髪の少女をめぐっての大騒動になった。
俺ももちろん彼女を必死に探した。保護しようと思ったのだ。奴隷の末路はあまりに無残で残酷だ。彼女にそんな目に合って欲しくなかった。言葉を交わしたこともない人間にそんなことを思うのは変かもしれない。だが、彼女には、そう思わせるなにかがあった。妙に惹きつけられるのである。
しかし、彼女を見つけることはできなかった。それは、賞金首のほうも同じようで、しばらくすると興が醒めたとばかりに出港してしまった。
