第2章 Click? Clack!
翌日。
荷造りを終え、簡易なお別れ会の後、私は彼の迎えを待っていた。
荷物は、リュック一つとボストンバッグ一つにまとまる程度しかなかった。
(つまり、この孤児院の中で、私の存在感はその程度だったってことだ)
おまけにリュックの中身は全部教科書やノートの類だ。
つまり実質この少ししぼんだボストンバッグが、私のすべて。
「……」
考えても鬱蒼とした気分になるだけだったので、私は考えを打ち切ってただ鹿野さんが来るのを待った。
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ほどなくして、鹿野さんは私を迎えに来た。
車だったので少し驚いたのだが、
「こう見えても、一応この姿は20歳以上だからね」
と、鹿野さんは笑った。
ともあれ、私は鹿野さんの車に乗り、家に着くまではボストンバッグを抱えてぼうっとしていよう、と思った。
「ところでさ、ライちゃんは」
ふと、鹿野さんが口を開く。
「嘘を吐くのが、得意なんだってね?」
「……」
私は答えない。
沈黙を肯定と受け取ったのか、鹿野さんは話を続ける。
「僕も嘘は得意なんだ。……欺く蛇の名前は伊達じゃないってわけ」
「へえ」
興味ない体を装い、適当な返事をする。
「うーん、興味ないか」
鹿野さんが仕方なさそうに笑った。……そうだよ。仕方ないんだから、私のことなんてほっといて。
「でも君と話さないわけにもいかないからなあ。……君のことが知りたいなー」
顔を上げると鹿野さんはこっちをみながら運転していた。
「あ……あぶないよ!」
私が慌てて声を荒げると、鹿野さんはニヤ〜っと笑った。
「ふふ。大丈夫だよ」
「大丈夫じゃ……あ、あれ……?」
もう一度顔を見ると今度は何故か、馬のマスクをかぶっていた。
「……な、何それええ!?」
……初めて見るそれに、私はほとんど生まれてはじめて声を荒げ、驚愕の声を響かせてしまった。