第2章 Click? Clack!
「まずね、君にはここから学校に通ってもらうから」
「あぁ、はい……」
まあ、学校に通うくらいならどうってことはない。
宿題も済ませてあるし。
「それでね、大事なんだけど、嘘はいくらでもついていいから、その代わり真実もちゃんと含めて、その日にあったことを教えてよ」
「……はあ」
「なんのために?っていま思ったでしょ。でもねこれ、大事なことなんだよ」
「大事?」
「そう。経過みて君が継続して学校に行くべきなのか決めたげる」
「何、ですか、それ」
「簡単な話だよ。僕もねえ、人間だった頃、あんまりにあんまりな嘘つきだった、そのうえに化け物だったから、社会に受け入れてもらえなかった。だから、義務教育すら済ませてないんだよ」
鹿野さんは愉快そうにケラケラ笑った。……何それ。笑い事じゃないじゃん。
「……お得意の嘘も、つく余裕がなければ形無しだね」
鹿野さんはまたぷふっ、と笑った。
えっ?もしかして、担がれた?
「う……嘘つき!」
「はははは、君に言われちゃ世話ないね」
鹿野さん、ゲラゲラ笑っている。……おちょくられた。
けれど、気づけばわたしも、少し笑っていた。
「ずーっとしかめ面だったけど、やっと笑ってくれたね」
鹿野さんはそう言って、わたしの頭を撫でる。
わたしは少し癖毛なので、撫でられると髪がボサボサになるのだけれど、それもあまり気にならなかった。
「……髪、乱れちゃったね。整えてあげるよ」
いつの間にか鹿野さんは手に櫛をもっていた。
「別にいいんだけど」
「まあまあ」
……まあ、好意を無碍にするのも悪いんだし、私は結局鹿野さんに髪を梳いてもらった。
「わあ、ふわふわだ」
私の髪を整えながら、手触りがいいね、だとか、柔らかいだとかいいながら、私の髪を褒めてくれた。
「でもこれ、結構ざんばらだね。切りそろえなきゃね」
……。
「うん。」
不思議なことに、警戒心なんかはなかった。
ただ、
「……ねえ、鹿野さん」
「あ、カノでいいよ。保護者にさん付けするのもおかしいでしょ。……それで、何?」
「毎日こうしてもらってもいいかな」
「いーよ」
これから、毎日髪を梳いてもらえる。……ほんの少し、嬉しいなあ。