第2章 Click? Clack!
「あ、帰ってきた。あのね、来ちゃん、あなたを引き取りたいって人がいるの」
結局あの日。
マンションから飛び降りたのはなかったことになったらしく、気づけば私はマンションの前に一人立ち尽くしていた。
鹿野修哉、彼らしき人物はどこにも見当たらない。
「……白昼夢、かな……」
どうだかはわからないが、もう死ぬ気にもなれず、私はもといた孤児院へと帰って行くことになった。
そこで、先ほどの言葉を言われたのだ。
「は?」
私が素で聞き返すと、孤児院の従業員である彼女はさらに答える。
「だからね、あなたを引き取りたいって人がね」
「なんて人ですか」
「……とりあえず、会ってみたら?」
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「や、こんにちは」
そこにいたのは私の予想通り、鹿野修哉と名乗ったあの青年だった。
「この子が、天音来ちゃんです」
「へえ。……思ったとおり、聡明そうな子だね」
鹿野は笑う。私はその白々しい笑顔から目をそらしながら、ふう、とためいきをついた。
「どうかな。ここよりはいい生活、させてあげるよ」
「はあ、じゃあ、お願いします」
生返事をすると、……鹿野さんより先に施設の人が笑顔になった。
これだから嫌なんだ。
「じゃあ、この子のこと、お願いします。
手続きなどありますから、こちらへどうぞ。
……来ちゃんは、お部屋で荷物の整理をしててくれる?」
「……はい」
私は静かに頷いて、部屋に戻った。
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「……」
ライちゃんが部屋を後にしてから、僕はのんびり手続きを進めた。……要項は少なかったし、かなり楽だった。
それよか、僕はいま、この目の前にいる女性に一言言ってやりたかった。
「ところでねえ、お姉さん。……僕、6年生そこらの子にあの態度はどうかと思うなあ。
あっ、じゃあ、また明日迎えに来ますから」
ただ文句をいいたいだけで返事が聞きたいわけじゃなかったから、文句を言ったら何か言われる前にそのまま一旦帰ることにした。
家はもう用意してあるから、ちゃんと家具とか置いとかないとね。
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