• テキストサイズ

【ダイヤのA】彼は私の友達

第1章 踏み出せない一歩


「なあ」
放課後、隣の席の倉持が声をかけてくる。彼は御幸の友達の一人で、チームメイト。彼が私に声を掛けてくるときは大抵御幸の事。
何故ならば、彼は私が御幸を想っていることを知っている唯一の相談相手だから。
こんななりをしているけれども、意外に友達想いである事を私は知っている。

「どうしたの」
持ちかけてくる話題について想像は勿論付いていたが、敢えて分からないような様子で応えた。
倉持はげんなりした表情で私を見つめる。正確には、私の通学鞄を。
「お前さあ、それいつ渡すんだよ」
目線の先には鞄から少し飛び出た手編みのマフラー。
私が御幸の為に1年の冬、編んだものだった。クリスマスの日に買った風を装って渡そうと思ったのをずっと渡せないで、季節は過ぎあっという間に夏になってしまった。
要らないって言われると思うと怖くて、勇気が出せないのだ。だって私達は友達だから。あげてしまったらきっと関係性が変わってしまう。
御幸と話せなくなるのは、嫌だ。話せなくなるのなら、言わない方がきっといい。

「バカじゃね。辛気臭い顔してんなよ」
ごつりと頭にゲンコツをもらう。
痛くない拳骨。
倉持は優しい。
口先では冷たい事言うのに、私に差し出してくれる手はいつだって柔いのだ。大切な大切な友達。

にしし、と変な声を出して笑えば彼も釣られるように笑った。


季節外れのマフラーを取り出し眺める。それは所々解れてしまっていて、買った前提でこんな物を渡そうとしていたなんて我ながら恥ずかしい。
馬鹿だな、なんて思いながら溜息を一つ吐くとそれまで黙っていた倉持が口を開いた。
「貰ってやろうか」
驚いて思わず倉持の顔を見上げる。
ほんのり頬がピンク色に染まっているように見えたのは茜色の夕日の所為か。
「お前、頑張って作ってただろソレ。
捨てるなら、俺に寄越せ。使ってやる」
ぐい、と腕を引き寄せられマフラーが倉持の手に渡る。
「見れば見る程下手だな」
解れた物をニヤニヤと笑いながら見つめる倉持にムッときて不機嫌を顔に出した。
そんな私に倉持はふっと優しい表情を見せて笑う。


「お前に貰うもんは、何でも嬉しい」

その笑顔に、言葉に
私の心が一瞬華やいだ気がした。
/ 5ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp