第2章 すり抜ける恋心は
俺には大切な奴がいる。
遠慮を知らないし、俺に対して態度がでかい生意気な奴。でも、笑顔が太陽みたいで、馬鹿みたいに一途で、努力なんか嫌いな癖に相手の為なら頑張っちまう。
そんなところが堪らなく可愛くて、いつの間にか目が離せなくなっちまったんだ。
こんな奴に想われている御幸が狡い。
あんな奴なんか止めて俺にしろよ、
俺ならお前を大事にしてやる、
何度も何度もそう出かかった言葉を喉の奥で飲み込んだ。言う勇気は無い。話せなくなるなんて絶対に嫌だから。それに、負けはもう決まっている。あいつは俺を好きになることなんて無いから。
あいつがいつも持ち歩いているマフラーを眺めながら、御幸と野上が手を取って笑い合う情景を想像して胸が張り裂けそうになった。
惚れたが負け、とはよく聞くがその通りで。
野上から御幸の相談事を持ち込まれたのは数知れない。いつでも御幸の事を話す時のあいつは周りに花を散らしたような表情をする。イライラするし、馬鹿馬鹿しいって思うのに、その表情がすげぇ好きで……胸が痛い。
「そのマフラー貰ってやる」
そう言われた時のあいつは驚いた顔をしていて、思わず好意を寄せていることがバレたかと思ったが、違ったようだった。ホッとした後、残念な気持ちになる、と同時に罪悪感に苛まれた。
…だって、本当は。
本当は、全部知ってるんだ。
御幸が、その手作りのマフラーを欲しがっていた事も、お前の事が好きだって事も。全部。
「応援してやる」なんて嘘だ。
応援なんてしたくない、お前を御幸に取られたくない、渡したくなんかない。
好きだ。好きなんだよ。
そんなテレパシーがお前に伝わる筈が無いって事分かっていても、止めることは出来ない。
でもお前を幸せへ導く為には、俺が諦めなきゃ。
手離さなきゃいけない。
「お前から貰うもんは、何でも嬉しい」
俺はあいつに笑いかける。
これで…これで諦めるから、ちゃんとお前を応援するから。
夕日に照らされた野上の顔が眩しくて、御幸に恋してるお前がキラキラしてて、目の前が霞んで見えた。