第3章 育ててきた想い
俺には大切にしたい女の子がいる。
俺が揶揄うと女の癖に構わず殴ってくるし、10倍にして返そうとしてくる変わった奴。
だけど、クラスの中でそいつは俺の気の許せる友達で。
負けず嫌いで楽観的。いつも俺が話し掛けると嬉しそうに笑って、目が合うと少し恥ずかしそうにはにかむ。
俺は、その顔になんだか胸がぎゅっと苦しくなる。
気付けば目で追っていて、こっちに気付け、なんて目で訴えてしまう。
この感情が友情を越えてるなんて、疾っくの疾うに気が付いていた。
微温湯に浸っていたんだ。暫くはこのままでいいって思っていた。あいつが好きなのは俺だけだって。
そう思ってた。今日の放課後までは。
「貰ってやるよ」
無人と思っていた教室から声が聞こえてきて、思わず耳を傾けた。今のは、倉持だろうか。誰かと話し込んでるようだ。
「でも、ボロボロだし…」
相手は誰だろうか、女だったら揶揄ってやろうなんて企んでいた時、聞こえてきたのは片想いをしているあいつの声。
進めていた足が止まる。
倉持とあいつがどうして。
「お前から貰うもんは、何でも嬉しい」
その言葉を聞いて一瞬で理解した。
倉持も、野上が…。
思えば倉持はいつもあいつの隣にいて、仲良く話していたじゃねえか。…どうして気が付かなかった。
自分の鈍感さに思わず笑いが出る。
彼女は作らない、なんて以前言っていたような余裕なんかは残っていなかった。
あいつを倉持に渡したくなんかない。
けれど、倉持は友達だ。
どうすればいい、どうすれば。
いくら打開策を考えてみても、真っ白い頭では何も浮かぶ訳が無くて。俺は考える事を放棄し、2人のいる教室へと足を進める。引き戸に掛けた手が勝手に震えた。馬鹿か、俺は…。試合でもこんなに緊張した事はない。其れ程、本気って事か。
一つ深呼吸、その後俺はガラリと引き戸を開け…
「よう」
夕日に照らされて、まるで恋愛ドラマのワンシーンを演じている2人を邪魔する脇役の如く話し掛けた。