第2章 始まりの花
他愛もない会話をしながら3つ目の駅で電車を降りた。そこから歩くこと10分、結構遠くまで来た気がした。
ふと、曲がり角で彼が立ち止まった。
黒子「お待たせしました。こちらがそうです」
そう言って右側を指し示した。なんだかちょっともったいぶった言い回しがおかしくて、私もわざともったいぶって言った。
穂波「それでは拝見いたします」
曲がり角を右折すると目の前に桜のトンネルが続いていた。満開は確かに過ぎていたけれど、まだまだ見応えがあった。
穂波「すごーい…綺麗…」
黒子「よかったら下を歩いてみませんか?」
ハラハラと舞い落ちる花びらの下を2人並んで歩いた。薄紅のトンネルの下はなんだか幻想的で、自然と笑みがこぼれた。
穂波「…あ、もう終わっちゃった…」
桜並木は80mほどあったが、あっという間に端まで着いてしまった。私がよほど名残惜しそうに見えたのか、彼は言った。
黒子「まだ帰り道がありますよ」
行きよりもゆったりとした歩調で歩いていると、風が吹いてきた。煽られて花びらが雨のように降り注ぐ。
穂波「…綺麗だね」
黒子「僕のとっておきの場所なんです」
彼の“とっておきの場所”という言葉がなんだかくすぐったくて、目を逸らした。意外とロマンチストなのかも。
黒子「…気に入ってもらえましたか?」
何故か少し不安そうに彼が尋ねるので、まっすぐ目を見て笑って言った。
穂波「うん。すごく綺麗で素敵な場所に案内してくれてありがとう、黒子君」
“とっておきの場所”へ連れてきてくれたことにお礼を言った。彼は一瞬だけ驚いた顔をしたけど、すぐに笑ってこう言った。
黒子「気に入ってもらえたなら何よりです。それと名前…覚えてくれてありがとうございます」
あ、名前…。間違えなかったんだ、よかったぁ。私にしては覚えるの早くない?嬉しくなって微笑むと黒子君も微笑み返してくれた。なんかいい雰囲気なんですけど。
黒子「駅まで送ります」
駅までの道のりがあっという間で、少し名残惜しかった。