第9章 咲き初める雨
穂波「それで話って何?黒子君」
黒子「…僕は君に謝らなければならないことがあります」
今日のことならむしろ私の方が謝らなくちゃいけないのに。
黒子「僕は君を傷つけました。せっかく君が僕を好きだと言ってくれたのに」
穂波「その話ならもう…私は大丈夫だから」
だから、忘れて。そう言うと黒子君は少し悲しそうな顔をした。
黒子「実はあれからずっと、僕は苦しかったんです。君が笑わなくなってしまったから。胸の奥の一番柔らかい部分を握り潰されたみたいに苦しくて仕方なかった。」
黒子君…。
黒子「始めは罪悪感なんだと思ってました。でもそれは違いました。今日、久しぶりに君が笑ってくれてわかったんです。僕は…君がもう僕には笑いかけてくれないことが苦しかったんです。」
黒子君?
黒子「僕は君の笑顔が好きだった。花が咲いたみたいに優しく笑いかけてくれる君が好きなんです。でも僕は君を傷つけました。君から笑顔を奪うほど深く」
黒子君…何を言っているの?
黒子「今更許してもらえるとは思ってません。君はさっきもう大丈夫だと言いました。もう僕のことはなんとも思っていないんでしょう。それでも僕は君が好きなんです。もう届かない想いでもいい。君のことを好きでいてもいいですか?」
黒子君…今なんて?
私のこと…?
頭の中が真っ白になった。何も考えられない。声も出ない。身動き一つできない。
沈黙を拒絶と捉えたのか、彼は目を伏せて言った。
黒子「すみません、勝手なことばかり言って」
そうじゃない、そうじゃないの
黒子「君が迷惑なら、諦めます」
違うの、私は…‼︎
穂波「…なの」
黒子「小坂さん?」
穂波「…きなの」
穂波「私、黒子君のことが好きなの」
絞り出すようにしてやっと声が出た。彼への想いと一緒に。涙が溢れてくる。次の瞬間、私は彼の腕の中にいた。
黒子「ありがとうございます。僕も君が好きです。だからもう泣かないでください。僕のために笑ってくれませんか?」
顔をあげると、黒子君は優しく笑っていた。涙でぐちゃぐちゃな顔で、私も笑いかける。私が泣き止むまでずっと、彼は私の頭を撫でていてくれた。