第9章 咲き初める雨
下駄箱で靴に履き替えて傘をさす。ふと誰かに呼ばれた気がした。昇降口には誰もいない。もしやこれは学園七不思議的なナニかか⁈いつもならワクワクするところだけど、今日はそんな気分じゃない。気のせいだから帰ろう。
…ん
…さん
…さかさん
「小坂さん‼︎」
後ろから大きな声で呼び止められた。振り向くと雨の中を走ってくる人影が見える。
穂波「黒子君⁈どうしたの⁈」
傘もささずに私を追いかけてきた彼に慌てて自分の傘をさしかけた。鞄の中からタオルを取り出して彼の濡れた髪を拭こうとすると、その手を彼が掴んだ。
黒子「小坂さん、僕に10分だけ時間をください。大事な話があります」
穂波「それは構わないけど…とりあえず濡れない所へ行こう?髪も拭かないと」
黒子「わかりました」
黒子君は私の手を掴んだまま渡り廊下の方へ歩き出した。引っ張られるように私も続く。雨に濡れない所まで来てようやく彼は掴んでいた私の手を離した。
黒子「いきなりすみません」
穂波「それはいいからこのタオル使って。風邪引いちゃうから。」
彼は黙ってタオルを受け取ると、雨に濡れた髪や身体を拭き始めた。
黒子「すみません、タオル汚してしまいました」
穂波「そんなの気にしないで。黒子君が風邪引く方が問題だから」
洗って返します、という彼の手からタオルを奪った。