第23章 緒戦開始
試合が始まった。誠凛ボールからだ。だが迎え打つ桐皇もすごい圧力をかけてくる。伊月先輩も攻めあぐねていると、スティールから先取点を取られてしまった。でも誠凛も負けていない。テツヤ君の新しいパスから木吉先輩、火神君へと繋いできっちりと返す。
テツヤ君の新しいパスに会場がどよめいた。私は元々知っていたけど、緑間君はあのパスの秘密に気づいたみたいだ。あのパスは螺旋の回転で威力を高めていると高尾君に説明していた。流石というべきか正解だ。だけどテツヤ君にかかる負担も大きいから乱発できないことには気づいてないみたいだ。
そうこうしているうちに試合は桐皇ペースで進んでいく。誠凛も点が取れない訳じゃない。なのに少しずつ差は開いていく。と、ここで火神君にボールが渡った。エース対決に会場が息を飲む。だが二人とも動こうとしない。どうしたの火神君⁈
ルール上決められている5秒間が過ぎようとしたところで火神君がパスを出す。エース対決は火神君が引く形で終わった。観客席から野次が飛ぶ。
高尾「いやー言いたい放題言われてますなー」
緑間「高尾もわかったのか?」
高尾「あー、なんとなくだけどな」
穂波「ねぇ緑間君、高尾君、それってどういうこと?」
緑間「素人目にはただ火神が勝負を逃げたようにしか映らないだろうが…」
穂波「違うの⁈じゃあ一体何⁉︎」
緑間「今の数秒二人の間で行われたことは高次元の駆け引き」
高尾「つまりお互いの手を読み合った限りなくリアルなシミュレーションって訳」
穂波「そんな…そんなことできるの?」
緑間「今実際にやって見せたのだよ。以前のアイツなら闇雲に突っ込んで終わりだったがな」
高尾「やるよーになったじゃんアイツ」
すごい…火神君そんなすごいことできるようになったんだ⁈
緑間「とはいえ誠凛が依然厳しい状況にあるのは変わらないのだよ」
高尾「さーて、どう攻めますかねぇ」
タイムアウトで一度ベンチに下がっているみんなを見る。見ているだけしかできないのがもどかしい。でも私に何ができる訳でもない。神様、どうか。祈るように見つめることしかできなかった。