第2章 惚れた弱み[月島蛍]
惚れた弱み、とはよく言うもので、相手がどんなに性格が悪かろうが酷い奴だろうが、恋する気持ちが上回ってしまう訳で。
「はぁ……ありえないよなあ」
机に突っ伏したまま、ぶーと口先を尖らす。
目線の先には月島蛍。
顔も頭もいい、背も高い。
乙女が恋する条件が揃っている。現に結構女子からモテているし。
しかし、性格が頗る悪い。すごく悪い。
みんな分かってないんだよ。馬鹿だなあ。
まあ、そんな奴の性格を知っていながら好きな私はもっと馬鹿だけど。
なんて考えながら、「ベー」と舌を出して睨んでやると月島蛍が此方に気付く。
見られるとは思ってなくて、咄嗟に反対の方向へ顔を向けた瞬間、首からゴキッと嫌な音がした。
隣から人を蔑んだような笑い声が聞こえる。
「こなくそ月島蛍」と思い、一言言ってやろうと思ったが、どうやら首の筋を痛めてしまったらしい。
動かすと鈍い痛みが走った。
一向に動かない私を変に思ったか、月島蛍が私に近づき上から見下ろしてくる。
おい、見下ろすんじゃない。目線を合わせろ目線を。
無言の圧力を与えたが、臆する事のない、いや、気にしてないのだろう月島は私の首に指を這わせた。
突然の出来事に「ひぇ」なんて奇声を上げてしまい、「ふっ」と月島蛍は嗤う。
こいつはどこまで私を馬鹿にすれば気が済むのだと思う気持ちと、そんな月島蛍が好きという気持ちがぐるぐるになって訳がわからなくなる。
「痛いの、ここ?」
ぐっと指の腹で、筋を押され痛みを感じ、手でバシバシと月島の腕を叩くと「痛いんだけど」なんて言いながら、そこを一層強く指で押した。
「ぐえ」と女らしからぬ声を出してしまって、少し恥ずかしい。おのれ月島蛍、許さない。
心配してくれたのかと期待した私が間抜けみたいじゃないか。…まあ、そんな事を月島蛍に期待しても仕方が無いんだろうが。
はあ、と溜息を吐き首を抑えながら立つ。
「保健室行って湿布貰ってくる。」
じゃーね、と言葉を付け足し教室を出た筈だが、後ろから月島蛍はついて来る。何なんだ、と思ったが声を掛けたら負けな気がして気にしないふりをしながら保健室目指して歩いてゆく。