第1章 勿論、返事はYes [菅原孝支]
その言葉に再び目を開く。
今何て言ったんだ?
俺と、帰る………?
思考が停止して、上手く考えられない。
まるで、さっき田中が妄想してたような事が現実に起こっている。
いやいや、いやいやいや。
何考えてるんだよ俺。こいつが俺の事好きなわけ……
「今日、友達とゲームしてて…負けちゃって……菅原と帰れって」
「ですよね」
俺の夢が一気に崩れ去る。
あー、ちょっと期待してた俺アホだろ、穴があったら入りたい。
ハハハなんて乾いた笑いをこぼしていると、きゅっと体操服の袖を掴まれた。
身体が硬直する。
相手にその気が無いとはいえ、俺には理性が崩壊する程の事で。
理性と身体を無理に相対化し、勤めて平気な顔した。
今なら軽く仏にでもなれる気がする。
「そ、それから、あの。」
袖を掴みながら排田は口をもごもごと動かす。
あー、キスしてみたい。
なんて何処か遠いところで思いながら、「おう」と答えた瞬間だったか
頬に、柔い感覚を覚えた。
「え、」と言う暇を与えずに彼女は俺から離れ距離を置く。上手く表情が作れず、きっと今の俺は間抜けな顔をしてるに違いない。
《林檎のように赤くなる》と小説で見たことがあるが、彼女の顔はその熟れた林檎のように染まっていた。
「帰りまでに、考えておいて下さい!!!!」
そう言い捨て、排田は走り去って行く。
その姿を俺は追いかけることもできず、見つめていることしか出来なかった。
後ろで田中と西谷がヒュウと冷やかす声が聞こえるが、そんなものはどうでも良くて。
今、俺はなんて言われたんだ?
頬にキスされた時に告げられた言葉を必死に思い出す。
《………好きです。》
一気に顔の体温が上がった気がしたーーーーーー。