第2章 惚れた弱み[月島蛍]
どくどく、彼女の心臓の音が聞こえてくる。
ぎゅっと強く抱きしめれば、彼女はびくりと肩を震わせ動かなくなった。
「何考えてるの」
そんな事言ったけど、答えは分かり切ってる。
彼女の頭は僕でいっぱいなんだろう。
だって、彼女は僕の事が好きだから。
全身全霊でいつも感じてた。
此方をじっと見つめる視線にも、好意にも。
自分で言うのもアレだけど僕ってモテるから、周りの女子達を一目見れば自分がどう思われているか直ぐに分かったんだ。彼女も最初はそのうちの1人だった。対して僕は、周りがどう思ってようが正直どうでもよかったし…っていうかバレーと勉強の両立で手一杯だし。
なのに。
一生懸命僕の為に可愛くなろうと髪型アレンジしてみたり、近付こうとして勉強頑張ったり、僕への好意を誤魔化そうとして歯向かう姿を見ていたら、いつの間にか君しか見えなくなってたんだよ。
最初は変な子だなって思って見てただけなのにね。
君は芸能人みたいに可愛いわけでもない。下手したら君の周りの子達の方が可愛いかもしれない。
性格も別に良いわけでも悪いわけでもない。まあ、僕みたいにはひん曲がってはないけれど。
これも、俗に言う惚れた弱みってやつだろうね。
こんな事絶対に言ってあげないけど。
再度、強く彼女を強く抱きしめて首筋にキスを落とす。
「ほら、言いなよ。僕が好きだって。」
ぐるりと椅子を反転させて、正面から見つめてあげればさくらんぼみたいに頬を染めた君と目が合った。
「つきしま、」
蛍、と紡ごうとした唇を人差し指と中指で塞ぐ。
「球子、間違ってる」
そう言えば、彼女は潤んだ目で僕を見つめ「蛍」と囁く。その情緒的な表情にゾクゾクと興奮に似た何かが走った。
堪らず僕は彼女にキスをする。
初めてのキスは、どことなく甘い味がした。
湿布…貼らないと、と思ったけれど今の雰囲気を壊したくない、もうちょっと…味わっていたい。
僕は手元にある湿布を届く範疇の物置に置いて、再び彼女との情勢に没頭したーーー。