第1章 勿論、返事はYes [菅原孝支]
「孝支くん」
誰かに話し掛けられ、ふと周りを見渡せば夕暮れに染まった教室。
この声を俺は知ってる。
だって、間違えようがない。
「排田」
俺は名前を口にして、相手に笑い掛ける。
排田は俺に応えるように微笑み、机の横に掛かっている鞄を取り出し椅子から立った。
「帰ろ」
そう言うあいつに俺は頷き、鞄を左肩に担ぎ空いた右手で排田の手をとる。
彼奴は恥ずかしそうに頷き、ぎゅっと俺の手を強く握り
しめたーーーーーーー。
「……………なんてどう思いますか、すがさん!!」
得意顔の田中がうおおお、なんて雄叫びを上げながらそう言う。
今日、部活でずっとソワソワしてたのはこれを言いたかったからなのか…。
てか、あいつのキャラそんなんじゃないし。
「いやいや、何勝手に俺と彼奴で妄想してるんだよ。
俺はあいつとそういう関係になるつもりじゃないし。」
俺は上記の田中の妄想にツッコミを入れつつ、制裁のウメボシを食らわした。
田中はぎえええ、と奇声を発しながらもまだ食い下がってくる。
「だってすがさん、排田さんの事大好きじゃないっすか!!!告白しないとか!!!!!」
ありえないですよ〜〜なんて嘆きながら抱きついてくる田中が鬱陶しくて顔を背ければ、体育館の端に清水の姿が目に入った。
「田中!ほら、清水の手伝いしてこい!」
「はい!!!!!!」
今までのウザさは何だったのか、清水の名前を出した瞬間田中は俺の元から飛び出し、一瞬で清水の目の前に辿り着く。
今日も綺麗ですね、素敵です、
田中はいつも清水に向かって気持ちを言葉にする。
そんな田中が心底羨ましい。
正直に言えれば、何か変わるのだろうか、俺と排田の関係も…。
そんなとりとめのない事を考えては落ち込む自分に「女子か」なんて心でツッコんで溜息を吐いた。
「あ、菅原くん!」
背後からあいつの声が聞こえてくる。
幻聴まで聞こえる程までになったのか…俺は。
「馬鹿だろ…俺」
自分の笑える状況に頭が痛くなりこめかみを押さえると、肩を誰かに引っ叩かれる。
衝撃に驚き振り向けば、排田の姿が目の前に。
「ちょっと、無視するなよ」
あいつはそう言って眩しいくらいの笑顔を見せた。