第2章 安住の地を求めて
憂鬱な気分のまま、一人暮らしであった自分のマンションの一室の扉の前に立つ。
この先には、私の幼馴染がいる。
先程噂話の対象にされていたサヤだ。
彼に心配させてはいけない。私が守らなきゃ。
味方は私しかいない。
両頬を軽く叩いて気合を入れる。
さあ、行こう。
「ただいま」
扉を開ければ、いつもと変わらない笑顔で彼は「おかえり」と言った。
すん、と鼻を鳴らせばいい匂いがする。
「今日はハンバーグだよ」
彼はこうして私の為にご飯を作ってくれる。
自分にとって美味しく無い人間の食事なんかを私に。
二週間ずっと飽きもせずに。
何故か無性に泣きたくなった。
彼は噂通り喰種だ。
しかし、生きた人間を食べようとはしない。
彼の家族はそうだった。
夜な夜な自殺や殺された人間を探しに行き、見つけ帰って来るのだ。
それを大切に大切に食べている様だった。
私は彼の家に何度も行ったことがあったが、家族は皆私に優しくしてくれた。
そんな人間と変わりない家族だったんだ。
二週間前までは。
サヤの親は、殺された。
隣人が死体を運ぶ2人を目撃した様で、通報したそうだ。やがて、2人は彼だけを逃がし、身代わりになった。
その後、彼はボロボロな姿で私の家へやってきたのだ。
酷くやつれた顔だった。
「◯◯? 大丈夫か?もしかして不味かったか…?」
サヤは心配そうな様子で私を見つめてきた。
もしかして酷い顔をしていたのか。
私は取り繕う様に急いで微笑む。
「違う違う、すごく美味しいんだけど、悪いなって」
そう言うと彼はまた笑った。
「俺こそ、ごめん」
そう言って。