第11章 あんていく:re
「はぁ。遅い」
静まり返った従業員室で私は腕を組みながらカネキの帰りを待っていた。明日、知人が新しくあんていくに入るからと言って、まだ店に残っている店長が、少し前に淹れてくれたコーヒーもいつの間にか冷たくなっている。
「お兄ちゃんが心配だから」と言って一緒に待っていたヒナミちゃんも小一時間前に船を漕ぎ出し、遂にソファでそのまま眠りに就いてしまった。
まったく。こんな遅くなるんだったら素直に帰って寝てるんだった。学校あるし。
取り敢えず、ヒナミちゃんを仮部屋に連れて行かなければと思いソファから腰を上げた時だった。
ガチャリと裏口の扉から音がした。
やっと帰ってきたのかと思い顔を覗かせると、カネキと知らない女の姿が見えた。
声を掛けようとして驚く。
何かの現場に居合わせたのか、女は返り血で汚れていた。
「おい…カネキ…」
「ごめん、トーカちゃん。店長呼んでくるから、ちょっと彼女の事頼んでもいいかな」
カネキは焦った様子で部屋から出て行った。
残されたのは女と私とソファで眠るヒナミちゃん。
「あの、ごめんなさい、急に押しかけて。」
女は申し訳無さそうに頭を下げた。
その時に袖から表皮が剥がれて真皮が露出した腕が見える。その腕には、所々抉れている箇所もあった。
「いや、大丈夫です。えと…」
何かあったのか、と問おうとしてやめる。
掘り返すのはきっと良くない。傷付けてしまうかもしれない。
私は彼女をソファに座らせ、早く店長が来るようにと思いながら、隣に腰掛けた。