第10章 無題
既に時は24時を回っていた。
商店街は勿論無人。辺りは静まり返っている。
この静寂が今の僕らには堪えた。
うるさい方が良い。周りの音に邪魔されて何も考えなくて済むから。
横を歩く彼女を見つめる。目は先程の光を失い、暗く澱んでいるように見えた。
ーーー昔の僕と重なった気がした。
開くことのない瞳、冷たくて硬くなった肌、聞こえなくなった鼓動。
全てが遠くなっていく様な気がした。
火葬場で燃やされた母の遺骨を目の当たりにしても、不思議と負の感情は湧かなかった。
ただただ空虚が僕の心を埋め尽くしていた。
暫くして、僕は気がついた。本当の僕は空っぽだった事を。
誰かに縋りたかった。抱きしめて欲しかった。空っぽの僕を埋めて欲しかった。
けれど、僕は独りぼっちだった。
だから、僕が彼女を支えてあげられれば良い。
僕が誰かに心の穴を埋めて欲しかったように、大丈夫だよって言って欲しかったように。
サヤさんの代わりになれれば良いと、心からそう思った。