第8章 ぬいぐるみ
◯◯ちゃんの目は虚ろだった。
ひたすら誰にも見せないように頭を抱え込んだまま動かない。ちらりと見えた事切れた顔は既に死後硬直が進んでいるようだった。
僕は背後から前に回り、彼女の手に自分の手を重ねる。
冷たい。
どれくらいの時間このままでいたのだろう。
こんな事を言ったら笑われるかもしれないけど、僕は彼女の暖かさが何処かに行ってしまうような錯覚を覚え、半ば縋るように彼女の手をぎゅっと、包み込んだ。
やがてゆっくりと彼女は顔を上げる。
「ああ、金木くん。来てくれたの。」
そう言う彼女には表情がない。
まるで人形になってしまったように。
頬にそっと手を当てれば、彼女はびくりと肩を震わせた。僕は彼女の目を見つめたまま「怪我はないか」と微笑む。きっとうまく出来ていない、けれど笑っている方が楽だった。このまま何もしていなければ、叫んでしまいそうだったから。
僕を覆い尽くそうとする憎しみと、殺してはならないと訴える道徳心が混ざって僕の心を締め付ける。
しかし、そんな事考えたって、僕はいつでも無力だった。結局僕は甘いんだ。中途半端な存在。
「金木くん」
気付けば◯◯ちゃんの顔が眼前まで迫っていた。
「どうしたの、大丈夫?」
にっこりと、いつものように笑った面様には影が色濃く染み付いているが、戻って来てくれたようで。
なんだが僕は無性に泣きたくなった。