• テキストサイズ

【東京喰種】chouchou

第7章 喪失



周囲の何かの臭いに不快感を覚え、目が覚める。
一体何の臭いなのだろうか。
まるで、血…みたいな。

周りを見渡してみたが、その根源となっているようなものは無かった。
その臭いが私から発せられているように思えた。
先程居た筈の喰種捜査官もサヤも、どちらも見当たらない。


彼らは何処へ行ったのか…



ふらふらとおぼつかない足でリビングへと進む。
あの時玄関にいたのに、目が覚めたらベッドにいた。
誰かが運んだのか。


「………?」

微かに、こつり、と玄関戸から音が聞こえた。
妙に気になり、扉を開けようとした瞬間、何かがフラッシュバックをする。







誰かが、笑っている。こちらを見つめて、悲しそうに。
横から鈍く光るものが彼を突き刺し、首を刎ねた。
彼の顔は宙へ飛んで、地へ落ちる。
私はその光景を見ていることしか出来なかった。
その間にも、私の身体は下へ下へと沈んでゆく。暗い意識の海へ帰ってゆく。
私はそのまま目を閉じ、目の前の世界を見ることをやめた。






扉は既に開いていた。
そこから見えるのは頭。
やがて、少し強い風が吹いて







ごろり。



生首が、転がって、私の足元で、止まった────。






「こんなところにいたんだね。
寒かったでしょ。」


私は、血飛沫がこびりついた腕で既に冷たくなった生首を持ち上げ、ぎゅっと抱きしめる。




涙は不思議と出てこなかったし、何の感情も湧いて来なかった。
ただただ、息が詰まって、目の前が霞んで、目眩がして。心は空っぽなのに、全身が軋むように痛い。






私は彼を抱えたまま、その場にしゃがみ込んだ。
彼の髪が頬について擽ったい。
得体の知れない、赤い気持ち。破壊衝動のようなものがせり上がってきて、抑えるように自らの腕に爪を立てた。
そのままガリガリと腕を掻き毟る。血が滲んだような気がしたが、私も彼も血だらけだ。
服にどのくらい血が付着しようと、最早どうでもよかった。


寧ろ、ずっとこのままでいたい気さえした。


彼の、におい、が消えてしまわないように、このままで………


/ 34ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp