第5章 不幸は廻る
「おかえり、遅かったな。
ちょっと心配した。」
鍵を開け、家の中に入ると
夕飯の準備に取り掛かっているサヤがいた。
かなり心配されていたらしい。
彼は直ぐに私に駆け寄った。
「ごめんね、本買ってた。」
私は袋から彼の好きな作家、高槻泉の本を取り出して見せる。彼の目はみるみるうちにキラキラとしたものになり、今日一番の笑顔を私にくれた。
本を手渡した後、私達は食卓につく。
といっても食べるのは私だけで、そんな私を彼が見つめる…といった感じだ。
今日は私の一番の好物であった。
一口、二口とそれを口にする。
「なんだか、今日はとびきり美味しい気がする。」
口に含みながらそう言えば、彼は「食べながら話すなんて行儀が悪い」と私を叱ったが、なんせ顔がにやけてるので全く怖くない。
そういえば、今日一大切な報告があったのだ。
「今日、やっと居場所見つけたの」
「………え?」
私は今日起こった過程をありのまま話した。
喜んでくれるかと思っていたが、どうやら違っていたらしい。
彼は苦悶の表情を浮かべ、何かに耐えていた。
私が「どうしたの」と声を掛けると、サヤは私のそばまで寄り、乱暴に掻き寄せた。
ギリギリと締め付けられ、彼の腕が肺までを圧迫する。喰種と人間では力の差が違う。息が出来ない。
私は抵抗しようとして、止めた。
彼は涙を流していたから。
遠くなる意識の片隅で感謝と懺悔の言葉を聞いた気がした。