第1章 チア女子
ある朝。
下駄箱で靴を履き替えているとき、
「成宮さん」
知らない声の男子に声をかけられる。
心の中で、
「今日、携帯忘れちゃいました」
って答えようと考えながら振り向く。
そこには、やっぱり知らない男子。
黒いツヤサラストレートの長い前髪に少し隠された切れ長の美しい目。
長いまつ毛。深い黒の瞳。形のいい鼻と唇。
着崩さないできちんと着た制服。
手には…手紙…?
え?
「これを…。よかったら読んでください」
差し出された手紙を受け取る。
宛名の欄にはあの見慣れた綺麗な文字で私の名前が書かれている。
裏返して差出人の欄も見てみる。
2E 逢坂 紘夢
「逢坂…くん…?」
私はそうつぶやいて、彼の顔を見る。
彼は黙って頷く。
「今までずっと手紙をくれていた人?」
私の質問に少し恥ずかしそうに、彼はもう一度頷く。
「あ……」
聞いてみたいことがたくさんあったはずなのに、声も言葉も出てこない。
「ナコ〜おはよ〜!」
リカとマユが登校してきて、ちょっと遠くから私に声をかける。
私は慌ててカバンに手紙をしまう。
「じゃあ…」
そう言って、逢坂くんは少し微笑み、去っていった。
……。
「何、今の暗そうな男。大丈夫? ナコ。なんか変なこと言われなかった?」
怪訝な顔をしたリカとマユに言われる。
「あ、全然。全然そんなんじゃないよ」
私は適当にごまかす。
「わたし、ちょっとトイレ行ってくるね〜」
そう言って、私は小走りでトイレに駆け込む。
…
トイレの個室に入り、カバンからさっきの手紙を出す。
この美しい手紙をトイレで読むのは忍びないけど、昼休みまで待てない。
教室だとユキにみつかってしまう。
私は封を丁寧に開ける。
手がちょっと震えてる。
手紙は、今まで名乗らずに手紙を送っていたことなどを謝る内容だった。
相変わらずメアドなどの記載はなし。
今回わかったのは彼の名前とクラス。容姿、声。
でも、もっと知りたい。
部活は? 得意科目は? 仲のいい友達は? 好きな食べ物は?
彼のことが知りたい。