第12章 僕のミス藤城
翌朝。
「やぁ、おはよう。朝からナコは美しいね。『ゆゆしうきよらなること』そのものだ。魂を持っていかれそうだよ…。
その魅力はみんなに見せびらかしていいものではないんじゃないかな?
堕ちていくのは、僕だけで充分だよ」
朝の待ち合わせ場所で、紘夢が『源氏物語』の『須磨』から引用して、私をおだてる。
「ふふ…『須磨』だね。おだてて何を言いたいの?」
「そのままの意味だよ。少し前にも君に魅了された一年生がいたよね。実はもっとたくさんいるんだよ。僕が事前に食い止めているんだけど、彼はノーマークでね…。
彼の寂しそうな背中を見ただろ? 僕は君にそんなたくさんの業を背負って欲しくないよ」
あれは、紘夢が強引に手紙を押し返したから寂しそうだったんじゃ…?
私は紘夢に宣言する。
「わたしが勝ち取りたいのはミス藤城なんてチャチなものじゃないの。チア部のプライドよ。女には戦わないといけないときがあるの」
「そう…。あまり乱暴なことはしたくないけど…。君がそのつもりなら、僕も何か考えないといけないね…」
紘夢が遠い目をしてつぶやく。
…
わたしは戦う。
そして、勝ってみせる。