第11章 目の前のことが知りたいの(R18)
噂されてることに気付いた紘夢がこっちに来る。
「こんにちは」
にこやかに、さわやかに桃越先輩に挨拶する。
「こんちは。キミがナコちゃんの彼氏だね」
「はい。2Eの逢坂紘夢です」
桃越先輩と紘夢が会話する。大丈夫かな…。
「優しそうな彼氏だね、ナコちゃん。でも、何か困ったことがあったら、すぐ俺に相談するんだよ。君もね」
先輩が私に、そして紘夢に優しく言う。
「はい。気にかけてもらってありがとうございます」
紘夢が礼儀正しく先輩に答える。
「じゃあね」
桃越先輩はかっこよく手を振って去っていった。
……。
「あ、たまたまここで会ったの。 あ! 紘夢、それお昼ご飯? 今から?」
気まずいのをごまかすために私はしゃべる。
「うん。読みかけの本が気になって、出遅れてしまってね。あんぱんしか残ってなかったよ。嫌いじゃないけど、昼食には少し寂しいね…」
紘夢が少し切ない顔をする。
「寂しいなら一緒に食べよ! いい天気だし屋上行こうよ」
「うん。そうだね。ありがとう」
私の提案に彼は嬉しそうに笑う。
…
屋上。いい天気。
「さっきの人…桃越先輩だよね」
紘夢があんぱんをかじりながら私に尋ねる。
「そうだよ。よく知ってるね」
「んー、ナコのアドレス帳に載ってたから」
あぁ、そういえばそんなことあったなぁ…。
「兄貴って感じだね。あの人」
少し嬉しそうに、彼が遠くを見る。
「そうかな…。うん、そうだね。わたし、男の人苦手だけど桃越先輩は話しやすい。ていうか…もしかして紘夢、お兄さんいるの?」
「うん、いるよ。最近、会ってないけどね」
「ふーん…」
私、知らなかった。
すごく親密になった気がしてたけど、まだまだ知らないことがあるんだなぁ…。
ていうか、さっきの見てヤキモチ焼いてる様子もないし…。
私はあんぱんをかじる彼の横顔をじーっと見る。
「食べたい?」
見られていることに気付いた彼が、食べかけのあんぱんを差し出す。
「ぷっ…いいよ。いらない」
私は手を横に振って断る。