第4章 立場と強さ
雪はピンっと背筋を伸ばし、真摯に零の瞳を見つめた。
彼らを騙す。
そのためにこの中で一番警戒心が高く、地位が高い彼を騙さなければならない。
「私の名は雪。ラーチアの御心により此処にいます。」
「戯言を。俺は証拠なしに物事を信じるような生き方はしていない。この目で確かめた事のみ信じてきた。」
やはり。
想像していたが自己信念が強い情が通じないタイプかな。
「おとぎ話も信じない?」
「長いこと語られ続けた話には語られ続けられるだけの根拠と歴史がある。俺が言ったのは目の前での情報に関してだ。」
「なら、ラーチアのこと信じてるわけね?その御心を疑わないで。」
「ラーチア様のことを信じるからといってお前を信じる道理にはならない。不審点が多いからな。」
互いに睨み合う。
言い切らなければならない。
「・・・私は自分の名前とラーチアによってここに居るという事以外覚えてません。」
「何?」
「ここがどこで、みなさんが何を食べるだとか生活しているかは検討もつきません。」
「今までどうやって生きてきた?」
「覚えてません。」
一瞬、幼馴染である怜音の顔が浮かんだが、決して表情にはださなかった。
何より、話を聞いてくれる姿勢をつくることができた。