第1章 明晰夢
莉那「隼人くんも明晰夢、経験したことあるの?」
持って来たティーカップに紅茶を注ぎ、熱さを確認しながら少しずつ口に入れる莉那が言った。
アチッて聞こえた限り、まだ冷めてなかったな。
隼人「あるけどススメしないぞ? 現実拒否したくなるから」
莉那「日頃から現実拒否している私はどうなるのでしょうか?」
隼人「廃人街道まっしぐら」
莉那「隊長、辞めます」
賢明な判断だと思う。
隼人「けど、何でまた明晰夢なんか?」
カップに紅茶を注ぎ、少し冷めるのを待つ。
その際、莉那の持っていた本を取り上げた。
莉那「実は最近ハマッている漫画の世界に飛び込んでみたくて」
分かると思うが、この子は二次元が大好きな子なんです。
その影響を受けたのがこちらの隼人でございます。
隼人「何処に行きたかったんだ?」
莉那「明晰夢で『進撃の巨人』の世界に行きたい」ドヤァ
そのドヤ顔に決してムカついた訳ではないが俺はこの言葉を送る。
隼人「じゃあ寝ろ」
丁度飲み終えたカップを置いた莉那を山賊が町娘を浚って行く感じに抱え上げ、抵抗する莉那を気にせずこの子の部屋まで行き、ベッドに投げ捨てた。
莉那「ちょ、扱いがひどいんじゃないかな!?」
隼人「お姫様抱っこされたいなら中間テスト頑張るんだなーーーおやすみ」
部屋の扉を閉めるとき、背後から不貞腐れた莉那による罵詈雑言が聞こえたが、孔明ばりの冷静さを持った俺に挑発など無意味だった。
自分の部屋に戻り、程好く冷えた紅茶を飲みつつさっきの妹の話を振り返った。
しかし…あの子が其処まで行きたいと言っていた進撃の巨人だっけ? 俺も読んではいたけど、何時の頃か読まなくなったな。何時からだったか。
…いかん、こうやって考え込んだヤツがその日も明晰夢候補になってしまうんだ。
明晰夢を見ると分かってから、なるべく見る夢の候補は現実的なものばかりにしている。
先日は莉那にヤンデレについて(無理やり)教わったせいで莉那に監禁されるという業界の人によっては御褒美な夢を見てしまった。
一応言っておくが、俺にその気は無い。