第5章 役目
俺たちが出かけた後、部屋で寝ていたゲルハルトの元にやってきたのはこの支部内の憲兵だったそうだ。
ヘラヘラしていて顔面を物理的に整形してやりたかったらしいが我慢してそいつからこの依頼書を受け取ったらしい。
普段は勅令憲兵隊の伝令が持って来るだけに珍しいと思いつつ受け取ったようだ。
何度も言うが、俺達の仕事はその勅令憲兵隊で扱うのが困難な任務だ。
本来こういった普通の仕事はそれこそ憲兵団のやる事だ。
これがその憲兵の怠慢による依頼書なら今日の夜、また制服を汚す羽目になるだけなのだが、依頼書には支部の隊長の承認を得たサインも入っており拒否が出来ない状況だ。
アイト「不本意かもしれないけど仕方ない」
アイリス「でも…治安維持活動と生産率向上って長期になりませんか? 本来の業務も兼任となると…」
アイト「最低6ヶ月らしい。―――その点なんだが…どうもトロストに向かうのじゃ俺ともう一名のみらしい」
そこら辺はちゃっかりしている。ここにいる全員がそちらに動けば諜報部の『本来』の仕事に支障を来たす事を見据えての事だろう。
アイリス「そうなると…こっちの業務に支障が出ない人を連れて行った方が良いですね」
ゲルハルト「じゃあオレは無理か。アイトが行くと殺しの担当が俺だけだ。アイリスも唯一工作技術に長ける人材だからいざって時に居ないと困る」
そうなると双子のどっちかになるな。
アイリス「じゃあリックを連れて行くと良いですよ」
アイト「なんで?」
アイリス「朴念仁」
今サラッとこの子ひどい事言ったよね。
大体私情と仕事を混同しないで下さいよ。
アイリス「それはまぁ冗談だけど、リックはウェンより頭良いですから内政術に長けると思いますよ」
ゲルハルト「…決まりだな。出発は何時だ?」
その問いに答えるべくオレは依頼書の最後に目をやった。
アイト「えっと…明日の早朝だな。馬車が支部に来るからそれで向かえって」
ゲルハルト「マジで無茶苦茶だな」
アイト「流石憲兵団。俺達に出来ない事をいとも簡単にやってのける」
アイリス「(竈を指差し)其処に入れたい刻みたい!」
今日も諜報部は賑やかです。
アイト「そんな訳だから準備してくるわ。……あんな事言った矢先にすまない…」