第5章 役目
「あー…お楽しみの所申し訳ないんだけど」
突然の声に俺もアイリスもビクリと反応した。
アイリス「ゲ、ゲルハルト…おおはよ」
執務室とダイニングキッチンの間の入り口に立っているゲルハルト。少し眠そうだ。
ゲルハルト「あぁ。っとアイト宛てに依頼が来たぞ」
壁に付けている手と反対の手に握られた紙が恐らく依頼書だ。
アイト「誰から。内容は?」
ゲルハルト「憲兵団から。個人宛の依頼だから未開封だ」
アイト「悪いが開封頼む」
ゲルハルト「あいよ。机のペーパーナイフ借りるぞ」
そう言ってゲルハルトは執務室の方に向かった。
アイリス「何ですかね…。勅令憲兵からじゃないからまさとは思うけど…」
用意し終えたアイリスが心配げにこちらを見つめる。
言いたい事は分かる。
殺しの仕事かもしれません、って言いたいのだろう。
アイト「夕食時にそんな依頼勘弁して欲しいよな…」
アイリス「…ですね。ゲルハルトォー、夕飯出来たから取り敢えずこっちに来なよ」
皿にスープを盛り、テーブルの中央にパンの入ったバスケットを置いて諜報部の夕飯の支度は整った。
三人が席に座ったのを見ると、アイリスが元気に食事の合図を言い放った。
アイリス「じゃ、いただきまーす!」
アイト・ゲルハルト『いただきます』
夕飯はパンとコンソメ風スープ。この世界にはコンソメの素はやはり無かったので、市場にある安価な素材でその風味に近いものを作ってみた。美味い。
アイリス「アイトさん憲兵じゃなくて料理人した方が儲かるんじゃないですか?」
アイト「転職しようかな」
ゲルハルト「戦う料理人かよ―――さっきの依頼書だが殺しじゃねぇよ」
パンを齧りながらゲルハルトは空いた手で俺の前に依頼書を差し出した。
隣角のアイリスも覗き込む。
アイリス「何々…? 『トロスト区憲兵団と共にトロスト区内治安維持活動。及び開拓民の生産率向上』……ってそれ普通の憲兵団の仕事じゃん!!」
バンッ! とテーブルを叩く。一番近かった俺のスープが見事に振動で零れた。
アイリス「憲兵団はそんな普通の任務も私たちに丸投げするんですか!?」
ゲルハルト「憲兵団がこんな依頼してくるってなると相当だな」
あまりの状況にため息が漏れた。今の日本の警察を見ている気分だ。