第1章 明晰夢
「あら隼人、紅茶淹れてるの?」
広々としたカウンターキッチンで紅茶を淹れていた時、不意に後ろから声を掛けられた。
「あぁ、母さん。風呂上り?」
ボディーソープだかシャンプーだか分からないが、良い香りを体中にさせながら近づいてくる。
「良かったらお母さんの分も良い?」
「あぁ。良いよ」
母はニコっと笑うとリビングに向かい、ソファに座ると仕事で使っているバッグから資料を取り出し、見始めていた。
オレはそんな母を横目で見ながら、ティーカップをもう一人分用意していた。
「それ、今やっている事件の資料?」
「そう。連続窃盗のね」
そう、母は警察官。
それも一課と来たからキャリア組だ。
「大変だね。---はい、紅茶」
「ありがとう♪ んー、やっぱ隼人が淹れると大分違うわね。良いお嫁さんになれるわよ」
笑顔がとても似合う母上は、今年で3「隼人くん?」
とっても素敵なお母様です。えぇ。
「はい、母上様」
「お父さんが演習なのは今日からだったっけ?」
「そうだよ」
「最近演習が多いわねぇ…」
父親は自衛官。しかもこれまた防衛大卒業のエリートさん。
もうやだこのチート家族。
「じゃあオレは莉那と放課後ティータイムと行ってきます」
「えー、もっとお母さんに構ってよー」
「その事件がちゃんと終わったらね」
時々、母親が構ってちゃんみたいになる。
あの娘にしてこの母あり、か。分かる気がする。
「その事件終えたらまたクッキー焼いてあげるから」
「じゃあお母さんがんがる!!(゜∀゜)」
ちょろい母親だ。
「じゃあ、頑張ってね」
「うん、頑張る!」
オレは銀のトレイに二人分のティーカップとティーポットを乗せ、キッチンを出て廊下を渡り、二階へと続く階段に向かった。
ガチャ
「莉那ー。紅茶」
「あ、ありがとー」
先程までノートや教科書で一杯だったローテーブルは既に綺麗になっており、今は莉那が部屋から持ってきたのであろう本が置かれていた。
「何読んでんだ?」
そう、何気なしに聞き、チラリと見た本の表紙を見て一瞬息を飲んだ。
『明晰夢を見る方法』